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幻の女

幻の女 PHANTOM LADY

幻の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 9-1))幻の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 9-1))
(1976/04/30)
ウイリアム・アイリッシュ

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<STORY>
その時刻、彼はただひとり街をさまよっていた。
たまらない不快な想いを胸に、バーに立ち寄った時、奇妙な帽子を被った女に出会った。形も大きさも色までもカボチャにそっくりなオレンジ色の帽子だった。
彼は気晴らしにその女を誘ってレストランで食事をし、カジノ座へ芝居を見に行き、酒を飲んで別れた。
そして帰ってみると、喧嘩別れをして家に残してきた妻が首に彼のネクタイを巻きつけて絞殺されていた。
彼の不在証明(アリバイ)を立証できるのは、名前も年齢も住所も知らないあの女だけだった。
しかし、誰一人として彼が女と一緒にいるところを覚えているものはいない…女の存在そのものが立証できなかった。
刻一刻と迫る死刑執行の日。唯一の目撃者である「幻の女」はどこに?



<感想>
古典ミステリというより、サスペンスと言った方がふさわしい小説です。
小学生時代に、少年少女推理小説全集みたいなものがあって、それで読んでいました。もう一度読んでみようと思って図書館で借りました。
殺人事件の概要と「幻の女」の正体と犯人は覚えていたのですが、その間はまるっきり忘れていたので、ようやく一つの作品にまとまった感じです。

実はこの作品、急逝された漫画家の和田慎二氏「愛と死の砂時計」という作品で描いています…と言っても「幻の女」を漫画にしたのではなく、この作品の趣旨を別作品に投影して描いたというべきでしょう。
主人公は「彼」ではなく、その婚約者の女性で、殺されたのは「妻」ではなく、その婚約者の保護者いうか後見人というか…学園の理事長だったかな?
「彼」がその学園の教師で、婚約者はその生徒という設定でした。
教師と女学生の恋ということで、当然のごとくその理事長は反対していました。それでも結婚の了承を得るべく、ふたりは努力を重ねていたわけです。
ある日、理事長から呼び出されて理事長室に行ってみると…死んでいたわけですね。
死亡推定時刻と思われる時間に、彼は自殺しようとした一人の女性に出くわし、思いとどまるように説得していたというのですが…はい、この自殺未遂の女性が「幻の女」なのですね。

こんな感じで設定が変わると、それに付随した事柄も変わっていくので似ているけれど別の作品になるんですよね。
私は先にこの漫画を読んでいたので、知らずに「幻の女」を読んだ時は本当に驚きました(笑)


さて、小説の方ですが。
改めて読んでみると、小学生の時とは全く別の感想が湧きあがってきます。
子供向けの訳と大人向けの訳では当たり前かw
今も昔も驚く箇所が変わらないのは「妻殺しで死刑宣告を受ける」「死刑執行がやたらと早すぎる」という点でしょうか。
なんと「事件発生」からわずか150日後で死刑執行となるんですよ…その間に捜査・立件・裁判・判決がある。

早すぎじゃありませんか?

ちなみにこの作品が書かれたのは1964年で舞台はニューヨークです。
アメリカの法律は日本のものとは異なりますが、これはちょっと理解しにくい部分でした。
あと意外だったのは「妻殺し」で死刑判決が出るところでしょうか。

すっかり「一人殺しただけで死刑は重すぎる」という考え方が定着してしまいました。(この言葉を弁護士が平気で言うからいけないんだ!)

まぁ、このあたりは国と文化・法律が違うからどうにもなりません。
違和感は拭えなくても、作品としては成立するのだからスルーする以外に方法はありません。
この作品の面白さはそこじゃないしね(苦笑)

とにかく、無実であるのに死刑宣告を受けてしまった彼を唯一救える「女」の行方を読者は追いかけるわけですよ。
また特筆すべきは、
この作品には探偵は登場しません。

何しろ読者は彼が無実である事を知っているし、また「事件の真相を解く・真犯人を探す」ことではなく、とにかく「無実を証明できる女を探す」ことが延々と書かれているわけです。

問題のその女ですが、「本当に誰一人としてその女を記憶していないのか?」となると、実は違うのです。
彼と女が一緒にいた事を証明できる人間はちゃんといたのです。
しかし、なぜか揃いも揃って誰も「見ていない」「知らない」と証言するのだからおかしい。
彼らは自分の証言が無実の男を死刑台に送り込むと分かっていて、そんな証言をした事になるわけです。
果たしてその真意は?と疑問が浮かび、彼の無実を信じて「疑惑の証人」や「女の手掛かり」を追いかける彼の友人彼の恋人(←既婚者なので不倫なんですよね。これがまた不利に働いたのですが…)が頑張るわけなのですが……ここはお約束で、その証人や手掛かりを知る者が次々と死ぬんですね~。
このサスペンスドラマの王道はこの「幻の女」からなのかな?

散々、振り回されて最終的にどんな結果を迎えるかは読んでのお楽しみになるのですが…その結末にはちょっと疑問もあるんですけどね(笑)
基本的には「意外な犯人」が確かにいいのですが、ちょっと意外過ぎて違和感が拭えなかったのも事実です。
もし犯人がその人物ならば、そこに至るまでの経緯というか、会話で不自然な部分があるからです。ただ、これは翻訳の結果かもしれないので何とも言えないかな。

ちなみに、この作品で殺されてしまった「妻」ですが……申し訳ないけれど全く同情の余地なしの人物で逆に笑えました。
殺人犯に仕立て上げられた夫は、新しい恋人(←この女性は本当に頑張る頑張る)がすでにいて、離婚をしようとするのですが、妻が全く相手にしない。すでに愛情なんてないけれど、自分と離婚できないと夫は新しい女とは結婚できない。嫉妬とかプライドの問題ではなく、どうも焦る夫を見て楽しんでいるようなんですね…。話し合うそぶりを見せて期待させておいて突っぱねるといういわゆるドタキャン?をし、それで喧嘩となって、夫が家を飛び出す事が事件の始まりなんですが…この妻の人物像を見る限り、いつ殺されても文句は言えない女性なんですよ。
真犯人によって殺された理由も何というか…殺人は許してはいけない罪ですが、被害者にだって多大な落ち度があるという典型的な例ですね。

この作品中の法律に照らし合わせるなら、逮捕された真犯人は確実に死刑かな。
最近、どうも推理物を読むと事件が解決しておしまいのはずなのに、逮捕された犯人の判決が知りたくなります。
「名探偵コナン」や「金田一少年の事件簿」では連続殺人が当たり前で、それなりに犯人側にも事情があったとしても、どういう裁判になるのか気になってしまいます。
中には金銭欲や名誉欲など身勝手な理由による殺人もあるので、こちらはほぼ死刑確実じゃないだろうかとも思いますね。
死刑制度に関してはいろいろと意見もありますし、諸外国の人権擁護団体からは抗議文を突き付けられていますが、私はどうも「死刑廃止」は考えられないんですよ。
被害者遺族の復讐という意味合いもありますけど、意外にもこの一言が実は原因だったりします。
例の「人を一人殺したくらいで死刑は重すぎる」という奴です。

死刑は立派な合法殺人だというのが死刑廃止論にありますが、殺された方の身になって見ればやはり「目には目を」の気分になってしまいますね。
まぁ、これは作品とは関係ないのですけど。

総合的にこの「幻の女」は面白い作品だと思います。

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こぶた貯金箱

Author:こぶた貯金箱
知識は浅く広くがモットーですが、好きなモノにはのめり込むタイプです。
ほとんどが図書館で出会いますが、過去に衝動的に手に入れた本なども紹介していきます。かなりマニアックなもののありますよ。

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